CHARACTER
北条時頼 (大河「北条時宗」)
筆者が渡辺謙の演技に関心を持ったきっかけの人物がこの北条時頼であった。北条時頼とは3代執権北条泰時の孫で、8代執権北条時宗の父となる、5代執権である。時頼は執権政治時代の中でも最強権力者、名執権と謳われる程の実力者である。人物設定を聞くだけでもこっちがワクワクするような役柄である。 ドラマは時頼が執権を継ぐところから始まるのだが、時頼は最初から強引な人物というわけではない。執権になったものの自分の進むべき道に戸惑い悩む‥いかにも主人公らしい人物(笑)だった。この手の演技はお得意技とでもいうべきもので、彼はセリフでペラペラしゃべらさなくても、表情や醸し出す雰囲気だけで「悩める人物」を表現できる役者なのである。 しかし、筆者が最も渡辺謙の演技に惹きつけられたのは、時頼が出家して頭を坊主にし、最明寺入道となってからである。時頼が病み上がりの身体を押して、時宗が成長するまでの身代わりとして長時を一時的な執権に指名するシーンは強烈であった。目が血走り、必死の形相で登場する。後はほとんど彼の一人舞台と化していた。 渡辺謙の演技というのは視聴者の目を一心に自分に向けさせるような演技をする。それは彼が狙ってそう演じているのかは筆者にはわからないが、とにもかくにも物凄いパワーを全身から発していて、一瞬たりとも目が離せない‥。 「とんでもない役者だ」と、この時頼を演じる渡辺謙に筆者は感じた。 もう一つ印象的なシーンを書こう。 そして極めつけは、やはり時頼絶命間際での涼子との和解のシーンだろう。「許してくれ」と初めて涼子に侘びを言う時頼。ポツポツと少ないセリフで心情を吐露する中で、これまでの自分のやってきたことへの後悔や、苦しみ、悲しみ、すべてを出し尽くしていた。あのわずかなシーンだけで時頼という人物に筆者は完全に惚れ込んでしまった。 彼はたった11話という短いストーリーの中で魅力的な人物を作り上げた。後に残された本来の主役である時宗なんかよりもずっと魅力的な人物にしてしまったのである。ドラマ全体のコトを考えるとある意味かなり罪なコトをしてしまったようにも思えるが‥(苦笑)。 世間的には渡辺謙の一番のはまり役は伊達政宗と考えられているだろうが、筆者はこの北条時頼が彼の一番のはまり役だと思っている。 |
藤原道長 (映画「千年の恋」)
この映画に対しての見解ではなく、あくまでこの映画の中で渡辺謙の演技についての見解を述べていきたいと思う。 彼はこの映画の中で二役演じているが、紫式部の夫・宣孝に関しては最初から人物として関心が持てなかった。 筆者がもっぱら関心を示したのは藤原道長の方であったので、ココでは道長のみにスポットを当てて述べていきたい。 平安時代の人物像を固定観念的にイメージとして持っている人たちが結構いるようである。そういう先入観を持っている人にとっては、今までの役柄や風貌から「渡辺謙の平安貴族」が最初から受け入れられないという人もいたのではないだろうか。 藤原道長を演じる渡辺謙の演技は秀逸であったと思う。この映画での道長は慎ましさなどとは無縁の、非常に信長的な道長であった。実際あの時代において道長という人物はかなりの野心家であったコトは間違いない。そんな野心家が繊細で、慎ましやかな人物だったとは想像し難い。戦国の武士のように自ら武器を持って戦う‥なんていう時代ではないけれども、恐らく野心剥き出しで政治に介入しようとしていたんじゃないか‥と思わせるような道長であった。 彼の演じる道長は野心剥き出しではあったが、雰囲気が粗雑で品のない人間というわけではない。渡辺謙の道長には高貴な品格もちゃんと感じられた。そこが筆者のいう秀逸であったという部分である。彼は風貌も野性的であり、これまで演じた役柄も荒々しい人物が多い。ただ、渡辺謙の雰囲気は粗雑で汚らしい野生っぽさというものではないのである。この人の仕草や動きにはムダがないというか、非常に颯爽としていてきれいなのである。彼にはそういう颯爽とした仕草や動きから自然と滲み出てくる品が感じられるのである。彼の風貌と裏腹に感じられる微妙な品の良さというものが、渡辺謙という役者に対してますます筆者に強く興味を抱かせるのである。 余談になるが、渡辺謙が新・仁義なき戦いで初めてヤクザ役をするらしい。どんな演技をするのだろうか‥と興味を持つ反面、これっきりにしてもらいたいという気持ちもあるのが正直なところである。仁義なき戦いシリーズは作品としては面白いし、ファンも多い。ただ、登場する人物のキャラとしての面白さや魅力(演技という点での面白さや魅力)があまりない。ヤクザの世界を物語の中心に据える映画では、渡辺謙の本来持つ魅力があまり期待できない。恐らく物凄い迫力のある、周囲にいる人間が震え上がるようなヤクザになっているとは思うが、こういう役柄をすることで、彼の持っている独特の微妙な品の良さを感じられなくなるのが筆者としては少々不満なのである。結局は筆者のわがままなのだが‥(苦笑)。 話を元に戻そう。 何にしてもこの映画でのふたりはホントにお似合いで、バランスの取れたカップリングであった。結局のところ、筆者は映画そのものよりもこのふたりのバランスの良さばかりが気になっていたのだ‥。個人的に吉永さんは渡哲也氏よりも謙さんとの方がよっぽどお似合いだと思う。(渡さん申し訳ない‥苦笑)ぜひまたどこかでこのふたりの共演を見てみたいものである。 |
戸田剛 (映画「海と毒薬」)
筆者はこの映画の中での渡辺謙の演じる「戸田」という人物に共感できる部分がなかった。ある種、共感できなくてホッとしているという気持ちにもなるが。 医学生である戸田という人物は実に功利主義的で、良心の呵責を感じていない人間で、心身の疲れと共に終始良心の呵責に苛まれ続けている奥田瑛二が演じる勝呂という人物と対照的に描かれている。 最初にまず人物設定を聞くと、キャストが逆の方がイメージしやすという人が結構いるんじゃないだろうか。渡辺謙が今まで演じている役柄からすると筆者も戸田というキャラクターを彼が演じていたのがかなり意外だった。だから余計にこの役柄が印象に残ったのである。 映画の中での戸田を演じる渡辺謙は常にクールで、勝呂の悩みに毎回皮肉っぽい言葉を返している。こういうある種特殊な状況を体験していないと理解しにくい精神構造の持ち主を演じるのはかなり難しいんじゃないだろうか。この役を演じている中で、彼の持ち味が熱っぽい演技だけではないことが良くわかる。 演じる渡辺謙には上手さを感じつつも、最後まで彼の言動や行動には共感できなかった筆者ではあったが、この映画を戸田の人間性の部分にもっとスポットを当てて見てみたいなという気持ちになった。 「海と毒薬」の話題からズレるが、この映画を見ていて渡辺謙の医師役というのもまた見たいなとも思った。 |
御代田警視正 (映画「溺れる魚」)
この映画そのものは筆者自身はそれ程お気に入りではない。しかし、渡辺謙が演じた御代田役は筆者のお気に入りのひとつである。 映画はほとんど監督の趣味のような作品となっていて、遊び過ぎ・やり過ぎ感が否めない。渡辺謙本人が言うように「無意味な映画」として見るならまぁ悪くはないが、堤作品でも同じく渡辺謙が出演した「池袋ウエストゲートパーク」の方が作品としてはおもしろいと思う。 けれど筆者はこの御代田警視正役がお気に入りなのである。理由は簡単で、渡辺謙の演技が興味深かったからである。 この御代田という人物はこの映画における黒幕とでもいうべき人物である。もう初めて登場した瞬間から怪しい…(笑)。だって、前半顔を現さないのだから。筆者がこの御代田役が気に入った所以は、彼が初めて実際に姿を現すシーンに集約されていると言って良い。 この役は彼には珍しく悪役なわけだが、言動や行動や仕草すべてにおいてイカレた典型的な(?)悪役ではない。もちろん精神構造がイカレているのは確かなのだけれど(笑)。顔も半分火傷の後が残っているし…。 いつも思うことだが、「渡辺謙の放つ存在感やオーラは唯一無二のものである」と改めて実感できる役柄であった。それゆえにこのキャラクターは筆者のお気に入りのひとつなのである。ただし、筆者は後半というかラストの演出は非常に気に入らなかったというコトは述べておこう。 |
伊達政宗 (大河「独眼竜政宗」)
1987年の大河ドラマ「独眼竜政宗」の主役伊達政宗役に抜擢されて渡辺謙は一気に世間の注目を浴びた。当時彼は一般的にはほとんど無名の役者であり、本当にまさに"大抜擢"という感じであった。筆者が初めて役者渡辺謙と出会ったのもこの作品である。 今でもこの政宗役が彼の一番のハマリ役だと考える人が多いだろう(筆者は違うが‥)。今政宗を演じる彼の演技を見ても、当時27歳だったとは信じ難いものがある。最近の若手とは比にならないぐらいの大物の風格が漂っていた。 この大河ドラマは歴代最高平均視聴率の大河であるが、筆者はこの視聴率は渡辺謙個人が叩き出したものだとは思っていない。独眼竜政宗は脚本・演出・共演者のどれを取っても出色の出来映えの大河であり、それがあの高視聴率に繋がったのである。 しかし、主役が誰でも良かったなんてコトは絶対にない。彼だったからこそ、あれ程魅力的な政宗像を作り上げることができたのであり、見ごたえのあるドラマになったのである。NHKのHPで最近まで歴代大河のヒーロー・ヒロインの投票なるモノをやっていたのだが、その戦国時代部門で伊達政宗は昨年放送されて記憶に新しい利家とまつを抑えて1位であった。ネット世代の関係もあってあまり古い大河の人物が挙がってきていなかったが、それでも政宗人気はやはり凄い。 これだけ政宗を人気キャラにし、インパクトを与え得たのは渡辺謙の演技に起因してるといっても良いのではないか。独眼竜政宗は渡辺謙に尽きると言い切る人も実際多い。やはり政宗役は渡辺謙以外ありえないキャスティングであったと言える。 政宗が渡辺謙であったからこそ、伊達政宗という人物が信長や秀吉などに負けず劣らず英雄のように見なされる様になったのだと筆者は思っている。 実際のところ、歴史の資料などに残っている伊達政宗像はそれ程英雄然とした人物とは思えないのである。「内股膏役」なんていう渾名がついている程で、保身工作のために腹黒いことも平然とできるような人間であったり、自分の信念を決して曲げたりしないなんていう人物ではなく、結構あっさりと力のある方へ靡いていくタイプの人物のようである。戦国の世を生き抜いていく術をわかっている賢明な人であることには違いないだろうが、戦国マニアの人や歴史オタクの中には割と政宗を毛嫌いする人が多いようである(苦笑)。 しかし、この大河ドラマ以降、伊達政宗はハンサムであるというイメージを人々に植え付けてしまった。それ以降の政宗は大抵カッコイイ人物として描かれることが多い。ひとつのドラマでこれだけ歴史上の人物のイメージを立派なものにしてしまうとは、もの凄い影響力である。 余談だが‥某TVゲームソフトの伊達政宗は渡辺謙にソックリだったりする‥(笑)。 ここで筆者の印象的なシーンを挙げていきたいと思う。 そしてもうひとつの印象的なシーンは、これも勝新との絡みなのであるが、鶺鴒(せきれい)の花押のシーンである。 政宗の成長が渡辺謙の役者としての成長と常にオーバーラップする所があったがゆえに、余計に視聴者の目に政宗が印象深く刻み込まれたのだろう。この伊達政宗が渡辺謙の一番のハマリ役と言われる理由もわかる気がする。 この大河ドラマは渡辺謙という無名の役者が、勝新太郎や北大路欣也、津川雅彦といった錚々たる役者に真っ向挑んでいったという構図がドラマの登場人物の関係性と絶妙にマッチしたことで非常に魅力的で秀逸な作品となったのだと筆者は思う。 |
王課長 (映画「てなもんや商社」)
この映画は結構好きな映画で、出演者も何気に豪華である。そして何より渡辺謙が演じている王(ワン)課長がホントにイイ味出している。 この王という人物は中国の華僑で、主人公の小林聡美扮するOLの上司という役どころなのだが、まさに”理想の上司”を絵に描いたような人物である。男女差別することもなく、部下を頭ごなしに叱りつけたりしない。部下の面倒見も良い‥etc.でもって、家では愛妻家で料理も作る(しかも上手い)という‥「もう言うコトなし!」みたいなタイプの人間なのだ。 この映画においての彼の演技は終始飄々としていながら、渋くてかっこいい。筆者はこの映画での彼の演技が凄く好きである。彼は熱っぽい演技をやらせたら右に出る者はいないと確信しているが、彼はこの王課長のような飄々としたとした人物をいつも通り存在感を感じさせながら演じるのも実に上手い。 筆者はこの映画を見ながら王課長を演じている渡辺謙が誰かに雰囲気が似ているなと感じた。「誰だろう‥?そうだ‥山崎努に似てる」と気づいた。‥他の人はどうだろうか? また筆者はこの映画での渡辺謙の飄々とした演技以外にも、王課長の台詞の言い回しがとても好きである。例えば小林聡美演じるイマイチやる気の無い新人OLに、中国貿易における仕事のやり方などを指導しているシーンで、小林がちょっとズレた質問の返答をした時に王が「違いまーす。」とあっさり切り返すシーンがあるが、その台詞の切り返す間が何とも絶妙で妙におかしかった。 渡辺謙という役者(演技)に興味があったら絶対この作品は見て欲しい。インチキ臭い髭は見逃そう(笑)。 |
横山礼一郎 (ドラマ「池袋ウエストゲートパーク」)
過激な映像や描写で放送当時PTAの方たちから抗議が殺到したという問題作(?)なのだが、レンタルビデオやDVDの回転率は非常に高く、人気作でもある。筆者も非常に好きなドラマである。 このドラマは長瀬智也や窪塚洋介、加藤あい、坂口憲二、妻夫木聡、小雪...など今旬の若手が大勢出演しているドラマで、面子だけ見ているといかにも"アイドルドラマ"という臭いが漂ってきそうな感じだが、内容はかなり異色で奇抜で新鮮で最近のドラマの中ではかなり面白い作品であった。 このキャスティングを最初にパッと見た時に「え?」と引いた人も結構いるかもしれない。「こんなアイドルドラマに渡辺謙は勿体ないんじゃないか?」という具合に‥。実際筆者も最初は「ん〜??」と思ったが、見ていたらホントに面白い作品で、「食わず嫌いはいけないな‥」と妙に納得させられたものである(笑)。 余談だが、本人は若い役者と演技をするのが好きだと以前どこかで言っていたように思うが、若手特有の勢いのある演技に彼がインスパイアされる部分があるのかもしれない。そういう彼の役者としての姿勢には好感が持てる。 筆者はこのドラマを見て、改めて渡辺謙の役者の引き出しの多さと、演技のセンスの良さを実感した。彼はこういう民放の連ドラにはあまり出演していなかったし、重厚なドラマで重厚な役者陣と重厚な演技をしていることが多い。このドラマのように重厚な演技よりも、勢いや若さで勝負みたいな演技をする役者たちの中でどんな演技をするのか楽しみでもあった。 渡辺謙という役者はどんな役者と絡ませても絶対に違和感を感じさせたりしない役者だというコトがこのドラマでよくわかる。彼ぐらい大物感が漂った役者だと、若手の役者と絡ませるとどうも浮いた印象を与えられることがよくあるのだが、それが全くない。見事にイイ意味で周囲の若手と馴染んでいた。 それだけではない。このドラマには若手だけではなく小劇場系で人気の役者阿部サダヲや摩訶不思議な(?)役者きたろうなど、渡辺謙のこれまでのフィールドとは異なる役者が彼を取り巻いていたのだが、その人たちともなんら違和感なく馴染みきっていた。 これは器用という言葉が当てはまるのだろうか‥本当に誰と組ませても違和感を消して、味のある演技を見せてくれるのである。 この横山という役はそれ程頻繁に出てくる役柄ではない。長瀬演じるマコトや窪塚演じるタカシとG-BOYSの面々が全面に出てくるドラマだから、要所要所では出てくるが、露出はそれ程多くない。それ故、ともすればエキセントリックな演技をしている窪塚ばかりが印象に残って、後はあんまり目立たない‥なんてコトもあり得たかもしれない。 そんな中にあって渡辺謙の存在感はやはり際立っていたと思う。横山署長の存在をあれだけ印象付けられたのは渡辺謙が演じたからだと筆者は思っている。横山の存在というのはこのドラマの一種の大人の象徴的な立場にあったため、他のメインのキャラからは一線を引いており、そんなに取り立てて目立つ行動をしていたわけではないのだ。 だが、渡辺謙が演じたことで横山はかなりインパクトの強いキャラになり得たと筆者は思っている。といっても、彼が「俺が!俺が!」というような我の強い演技をしていたわけではなく、あくまで落ち着いた演技をしており、しっかりとメインの若手の役者陣を立てている。 このドラマでは上手さを全面に出すのではなく、ちらっチラッと上手さを垣間見せる演技をしているような感じで、そのことが逆に筆者を感心させた。 我を張るような演技をして目立とうとするのではなく、あくまで若手を立てる演技をしながら自分の存在を際立たせている。やはり彼の役者としてのセンス、演技のセンスが卓越していると実感せずにはいられない。 また、このドラマでは渡辺謙の台詞の間の取り方や相手との演技の呼吸が非常に上手いというのがわかる。小林聡美と共演していた「鍵師」でも彼の台詞の間の妙を感じられたが、このドラマにおいてもそれが感じられる。 例えば横山がタカシに事情徴収をするためにタカシの店(サウナ)を訪れた時のタカシの父(渡辺哲)とのやり取りは特に面白い。渡辺哲の珍妙な行動(横山にはずしてくれと言われてベルトを外す)自体も笑えるのだが、その行動に対して反応する横山の表情や間が、その行動のおかしさをより際立たせていた。 あれは相手との演技の呼吸の取り方が悪いと面白くなくなってしまう。彼のこういった演技にはちょっとしたコメディセンスを感じさせられる。いったいどれくらい渡辺謙の演技には引き出しがあるのか?‥とにかく器用な役者である。 このドラマでは渡辺謙の演技を主食として堪能はできないが、彼の小技を効かせた演技をちょこっとずつ味わえる作品だと思う。 |
藤巻寛明 (映画「新・仁義なき戦い-謀殺-」)
とりあえず、あんなに"下品で単純馬鹿っぽい渡辺謙"は初めて見た‥というのが最初の印象であった。歩き方からしてまず下品(笑)。がに股・前のめりの歩き方は、それはもう品もヘッタクレもナシ! 渡辺謙のあの下品さ・素行の悪そうな雰囲気に馴染んでいなかったので、冒頭違和感を感じてしまった(本人の演技に違和感ゼロ‥笑)が、途中からはそんな違和感も消えていった。またもや彼の演技の凄さに飲み込まれてしまったわけである。彼が画面に登場するたびに次は何を仕出かすのか、いつプチッと逝っちゃうのかと映画の筋とはまた別のところでドキドキする。 この映画での渡辺謙はカッコ良くない‥。語弊のある言い方ではあるが、カッコ良い・カッコ悪いなんていう見た目の良し悪しなんかに構ってられるか!的なものが、あの演技からもろに伝わってきたのである。そういう意味でカッコ良くない。 もちろん背が高くて、元の造りが良いので黒いスーツを着込んで黙って大人しくしている時はカッコ良く見えてしまうのだが、一旦キレたら最後、もう「なんじゃコイツは!獣かよ‥」という状態で、カッコイイなんて悠長なことを言ってられないのだ。 あと家にいる時も下品この上ない(笑)‥隣で大福をバクバク食ってる夏木マリも凄いが、赤のジャージ(っつーか赤かよ!みたいな‥)を着てダラッとしている姿もまた何とも言えん。しかも夏木マリを「かぁちゃん」と呼ぶのだから‥いやいや。普段二枚目とか言われてる役者がここまでやるんかい!?‥と見ながら唖然としながらも感心してしまった。これが普通ですか? 映画では予想通り(やはり)完全に主役である高橋克典を喰ってしまっていた。一緒に並んでいてもどうしても渡辺謙の方が目立ってしまっている。設定として高橋演じる矢萩が渡辺謙演じる藤巻を立てるという設定であったのでそれはそれで良いとは思うのだが、あの存在感と真正面から勝負するのは相当ハードだろうなぁ。 しかも渡辺謙は荒っぽい役柄なために余計に目立つ。ふと思ったがこの矢萩と藤巻のキャストを逆にしたらどうだったかな。矢萩のようなクールで縁の下の力持ちの如く相手を立てる演技を渡辺謙がやっても、高橋克典を喰ってしまっただろうか。ちょっとどんな感じになるのか興味が湧くなぁ。 印象に残ったのはラストの方のケータイの留守電に残った矢萩のメッセージを聞いて愕然とするシーン。全裸(バックの全身刺青は絶句…)になったのも強烈なインパクトだったが、肩を微かに震わせながら悲しみに暮れる演技もさすが。暴れ回って、怒鳴り散らすだけではない。背中でしっかり演技しちゃってるんだよ、この人は。 別の意味で印象に残ってしまったのは、小林稔侍演じる組長がクラブでホステス(かな?)とダンスしている横で女とイチャついてるところ…卑猥なイチャつき具合に「おいおい!そこー!!」と内心突っ込みを‥(笑)。 他にもこういうちょっとHな描写もあったけど、こういうシーンはこういう役じゃないときっと見られないだろうな。 上の方で散々下品だの単純だのなんだかんだ言ってきたが、最後にキレて組長に向かって銃をぶっ放す姿はカッコ良かった。銃を構える姿勢とか、もうひとつの銃を抜き差す時の動きとかね‥。動作がスマートなんだな。その後の怒鳴りつけるあたりになると、また獣のようになっちゃうわけなんですが…。 どうでもいいけど、この藤巻って役の演技はストレス発散に良さそうなキャラですな(笑)。あんまりやると疲れるかな。 熱っぽい演技は今まで何回も見たことがあったが、この役のような血の気の多い役と演技は初めてであった。善良な人柄で人の上に立つ人物を演じさせてもピッタリとハマる人だが、こういう暴力や凄みや恐さなんかの力業で上から押さえつけるようにして人を従わせる役も普通にやってのけてしまうのは意外に凄いんじゃないだろうか。 とは言え、こういう役というよりもヤクザ物・役柄はこれで最後にしてもらいたいである(苦笑)。 粗暴な演技も上手いのはわかったが、渡辺謙にこういうひたすら恐い役柄のイメージを植えつけて欲しくない。しかも今回のようなキャラはホントに単純というか、深みがあんまりないから渡辺謙にやらせるのはもったいないような気もする。 そもそも、怒鳴り散らして力業で人を従わせるような演技よりも善良な人柄でありながらも人を従わせるような演技の方が難しい。存在そのものに説得力がなければ出来ないから、誰にでもできるわけじゃない。 それに筆者が思っている渡辺謙の魅力は雰囲気や仕草にどことなく漂う品の良さであり、そういう微妙な魅力は貴重。わざわざそれを消してしまうのはもったいない。粗野な役も出来るとわかっただけで十分な感じなのである。 傲慢な見方かもしれないが、これが率直な意見である。 |
坂巻隼人 (映画「スペーストラベラーズ」)
この映画は「踊る大捜査線THE MOVIE」の監督本広克行氏の作品で、踊る〜の大ヒットの勢いからかなりの期待を担った次の作品であった。それ故に、この映画に対する見方もかなり厳しかったかもしれない。筆者の感想は‥前半が非常にストーリーとして良かったが後半が締まりのないモノになってしまっていたというのが正直な感想である。筆者としては前半の勢いのまま徹底的にエンターテイメントに徹してもらいたかったのだが、その辺りが凄く日本映画的でラストにお涙頂戴的な展開にしてしまったのが筆者としてはかなり残念で仕方なかった。結局警察に包囲されて終了なんていう尻つぼみな展開ではなく、どうせなら主人公3人の持っていた写真に写った南の島まで逃げ切って行くような展開にして欲しかった。もともと設定自体からして荒唐無稽なのだから、そこまでやったって別に構わなかったと思う。 |
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